コラム COLUMN

第1回 アセビ 万葉呼名:あしび

磯の上に 生ふる馬酔木を 手折らめど 見すべき君が 在りと言はなくに

大伯皇女

アセビ 万葉呼名:あしび

あせびは、里山に春を告げる花として親しまれているツツジ科の常緑潅木です。筒状にこぼれるような花と光沢のある葉が特徴ですが、その葉には毒性があり、馬が食べると酔ったようになることから「馬酔木」と呼ぶこともあります。

詠み人の大伯皇女(おおくのひめみこ、または大来)には、2歳年下の弟・大津皇子がいます。この姉弟の父である天武天皇崩御直後の皇位継承で、謀反の咎で24歳の若さで大津は殺されてしまいます。諸説多々あるようですが、大津の親友・川島皇子の密告だったことから、天武天皇の后であり叔母にあたるのちの持統天皇の陰謀とも・・・・・。大来は幼くして母(持統天皇の姉)と死別したばかりか父と弟を同時に亡くすという不幸にみまわれ、その後の十数年間を都でひっそりと生き、41歳でこの世を去ったといいます。

万葉集には大来の歌が6首収められていますが、いずれも弟・大津を詠んだもので、「見すべき君が」は大津のことをいっています。ピンク色した可憐なあせびに、天皇の子でありながら、運命に弄ばれ薄幸だった姉弟の顛末が潜んでいたなんて、思わず目頭が熱くなります。(ま)