コラム COLUMN

第2回 オミナエシ 万葉呼名:をみなへし

をみなへし 佐紀沢に生ふる 花かつみ かつても知らぬ 恋もするかも

中臣女郎

オミナエシ 万葉呼名:をみなえし

秋の七草は、『万葉集』で山上憶良が詠んだ歌(『カリヨン通り』第5号参照)に由来しています。そのひとつ、オミナエシは秋風にそよぐ優美でたおやかな姿はいかにも女性的で、漢字では「女郎花」と書きます。お女郎(じょろう)というと、遊郭(ゆうかく)や岡場所(おかばしょ)の遊女が思い浮かび卑猥な妄想にかられますが、本来は貴族の令嬢や令夫人を称する敬語だったようです。

詠み人・中臣女郎(なかとみのいらつめ)の出自は分かっていませんが、当時のエリート官僚大伴家持(万葉歌人・旅人の長男)をめぐる女性のひとりです。家持には大伴坂上大嬢(おおとものさかのうえのおおいらつめ、従妹で正妻)、笠郎女(かさのいらつめ)、紀女郎(きのいらつめ)、山口女王(やまぐちのおおきみ)ら『万葉集』に登場する女流歌人のほかに、九州や越中など国守として単身赴任中には現地妻までいたらしいといいますから、十指に余るほどのプレイボーイ振りだったようです。

さて、自称美人の中臣女郎は家持に歌を贈って(「をみなへし・・・」もそのひとつ)モーションをかけますが、返事はなしの礫。次第に気持ちが自分に向いていないことを悟っていったのか、あきらめの歌に変わっていきます。結末は彼女の失恋でThe Endとなりましたが、家持の釣れない素振りに、同姓として同情頻りです。(ま)