コラム COLUMN

第5回 ヤブツバキ 万葉呼名:つばき(椿)

巨勢山(こせやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲(し)はな 巨勢の春を

坂門人足

ヤブツバキ

ヤブツバキの実

「♪つらつら椿 つらつらに~」と、リズミカルでとても調子のよい歌です。作者の坂門人足(さかとのひとたり)は飛鳥時代の下級役人で、持統(じとう)天皇の紀伊行幸のお供をしたときにこの歌を詠みました。この行幸は今でいう新暦の10月なので、冬から初春に咲く椿は、まだ堅い蕾をつけたままだったかもしれません。現代ほど花の種類は少なかったでしょうから、椿は万葉人にとって、とても愛すべき花だったのでしょう。大和巨勢の地で連なる木立ちに見とれ、思わず「♪つらつら椿 つらつらに~」と、連想しながら詠ったのでしょうネ。でも、この歌を女帝に捧げたかどうかは不明です。

さて、今回は100年ちょっと前のイタリアに飛んでみます。日本原産の常緑樹で、庭木として人気が高い椿が、西洋に渡ったのは近世になってからのことです。特に19世紀には、椿ブームが起こったといわれ、深紅のこの花を付けた娼婦が登場するオペラ『椿姫』はあまりにも有名ですが、今日では作曲家ヴェルディの代表作とされる『椿姫』の初演は大失敗だったようです。準備不足に加え、結核で亡くなってしまうヒロインであるマルグリットの体形が豊満だったことから、観客や批評家からブーイングの嵐・・・・・・。世界3大オペラと名高いあの『カルメン』や『蝶々夫人』も初演はみごと(?)に失敗だったといいますから、ちょっと敷居の高いオペラも急に身近になってきます。 でも、オペラ歌手って体格のよい人、多いですよネ(!?)。

「椿」と「さざんか」は素人目には区別がつきにくいのですが、見分け方の一つとして、ポトリと落ちるのが「椿」、パラパラと散るのが「さざんか」だそうです。椿には一重や八重があり、園芸品種も多く、藪椿のほかに雪椿、寒椿、夏椿などが知られています。えぇ、私の好みですか?茶室の躙(にじ)り口からうかがえる、清楚な佇まいの白い「侘び助」です。(ま)