コラム COLUMN

第15回 ユズリハ 万葉呼名:ゆずるは(弓絃葉)

古(いにしえ)に 恋(こ)ふる鳥かも ゆずるはの 御井(みい)の上より 鳴き渡り行く

弓削皇子

ユズリハ 万葉呼名:ゆずるは

持統天皇が吉野に行幸されたときに、お伴した弓削皇子(ゆげのみこ)が都にいる額田王に贈ったお歌です。皇子は父である若き日の大海人皇子(後の天武天皇)と額田王とのロマンスを思いだし、「古に恋ふる鳥」とはなんでしょうと、謎かけのように「昔を恋い慕う鳥でしょうか。ゆずるはが茂る泉の上を鳴いて渡って行きましたよ」と詠います。
そして、才女・額田王が応えます。

―古に 恋ふらむ鳥は 霍公鳥(ほととぎす) けだしや鳴きし わが念(おも)へる如(ごと)―

「それはほととぎすです。きっと鳴いたことでしょう、私が昔を恋しく思うように」
不如帰(ほととぎす)とは中国の故事からきているもので、中国文学の影響が、才女が才女たる所以なのでしょう。このとき皇子は20代そこそこ、額田王は60歳過ぎ(愛された天智天皇も天武天皇もすでに故人)。まるで甘えん坊の孫とやさしいおばあちゃまの関係ですね。弓削皇子は享年26歳で疫病で亡くなり、その同じ年に母である大江皇女も看病疲れで亡くなったと云われています。

ユズリハは、春に若葉が出たあと、古葉がそれを譲るように落葉することから、その様子を、親が子を育て子孫が代々続いていくようにと見立てて縁起物されてきました。(ま)