コラム COLUMN

第9回 ウメ(梅) 万葉呼名:うめ

我が園に 梅の花散る 久かたの 天(あめ)より雪の 流れ来るかも

大伴旅人

うめ

「万葉の杜」では早春から夏にかけて順繰りに花が咲き始めます。そのトップを飾るのが白梅です。梅は中国原産で、その昔遣唐使や修行僧が持ち帰ったと伝えられています。万葉のころは白梅、平安時代になると紅梅が人気を博したようです。
大伴旅人は大宰府で催された宴で、「私の庭の梅の花が散っています。空から雪が流れてきたように」――雪のようにと言っていますから、白梅だったことがよ~くわかりますネ。この宴には山上憶良や小野老らもいっしょで(第3回 わすれぐさ参照)、32首の歌が詠まれました。

山上憶良の歌―春されば まづ咲く宿の 梅の花 独り見つつや 春日(はるひ)暮さむ―
小野老の歌―梅の花 今咲ける如(ごと) 散り過ぎず わが家(え)の園に ありこせぬかも―

さて、『万葉集』には、萩についでこの梅を詠んだ和歌が119首も掲載されています。その中には憶良や小野老(おののおゆ)らのほかに柿本人麻呂、大伴家持らが名を連ねています。ここでは、家持のおとうさんである旅人の梅の花の歌をもう一首紹介しましょう。長男の家持は転勤のたびに現地妻がいたようですが、旅人は太宰府の帥(そち、長官)として奥さんとともに下向しています。その地で、3年前に亡くなった老妻を偲び、「妹子(いも、奥さん)が植えた梅を見るたびに胸がつまって涙してしまう・・・・・」と。

―忘我妹子(わがいも)が 植ゑし梅の木 見るごとに 心咽(む)せつつ 涙し流るめ―

梅花の宴で雪にたとえて詠んだ白梅の歌よりも、夫婦の情愛が感じられるこの妹子の胸キュン歌のほうが好きです。(ま)