コラム COLUMN

第10回 カワラナデシコ 万葉呼名:なでしこ(撫子)

朝ごとに 我が見るやどの なでしこが 花にも君は ありこせぬかも

笠女郎

ナデシコ

ナデシコ

―毎朝私が見る庭のなでしこの花があなたならよいのですが―

秋の七草(「キキョウ」を参照)のひとつ、「なでしこ」の花です。名門の貴公子で、宮廷の女性たちにモテモテのプレーボーイ(「オミナエシ」を参照)の大伴家持が、最も愛した花が「なでしこ」だったそうです。それを知ってか知らずか、笠女郎(かさのいらつめ)は家持に「なでしこ」の歌を贈りました。

『万葉集』には、女郎の歌が29首ものっていますが、そのすべてがお慕いする家持様へのお歌です。数年にわたり恋の歌を贈りつづけますが、その恋が成就することはありませんでした。徐々に怖~い歌に変わっていきます。トホホですね。

わが形見 見つつ思(しの)はせ あらたまの 年の緒長く われも思はむ
―この形見を見ながらわたしをしのんでください。長くわたしもあなたをお慕いしましょう―
相思はぬ 人を思うふは 大寺の 餓鬼の後(しりへ)に 額づくがごとし
―思ってもくれない人を思うなんて、餓鬼像をそれも後ろから拝むなんて・・・。あなたを思うなんてそれと同じよ―

女郎には悪いのですが、トホホついでに、妾(しょう)が亡くなったときに家持が詠んだ歌を紹介します。

―秋さらば 見つつ思(しの)へど 妹(いも)が植ゑし 屋前(やど)の石竹(なでしこ) 咲きにけるかも―
当時の妾(しょう)は、今日でいう妾(めかけ)とは意味合いが違い、複数いた妻のひとりでした。この妾は家持が好んだ「なでしこ」の花を庭先に植えていました。妾が亡くなってから咲いた可憐な「なでしこ」に人の命の儚さを思い、家持は悲しみを新たにしたのかもしれません。この心優しい妾との間には子どもがいたといいますから余計に想いは募るでしょうネ。(ま)